勇者召喚に巻き込まれる勇者

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「勇者様ー!」 「とうとう魔王を討伐されたのですね!」 大勢の巻き起こる歓声が辺りを喜びの感情で満たす。 長いこと魔王と呼ばれる魔族たちの王によって引き起こされた戦争により人間や他の種族たちは苦しめられてきた。その苦しみから解放されたのだからこの喜びようは理解できるだろう。 そもそも魔族とは一体一体が他種族を圧倒できる力を持った種族である。 魔族は最下級クラスの戦士でも単体で人間の中隊規模の戦力に匹敵する能力を持っていた。そんな強力な戦闘能力を誇る魔族に対して人間はあまりにも無力。どんな策を弄し、罠を仕掛けたところで力技で罠ごと食い破られる。 そんな戦いとも言えないただの一方的な蹂躙劇を繰り広げられた人間や亜人や妖精などといった種族は危機感を覚え手を組み、数の力で魔族を滅ぼそうと考えた。 だが状況は最悪の方向へと進んだ…… 数の力で魔族を追い詰めることは出来た。しかし、出来たのはそこまでだった。 追い詰められた1人の上級魔族が覚醒し魔王となったのだ。 魔王となったものは最早神の力を手に入れたと言っても過言ではない能力を手にしたのだ。単純な戦闘能力はもちろんのこと、魔王は自分の配下の能力までも底上げしてしまう能力まで得てしまったのだ。 唯でさえ一体でも厄介な戦力の魔族が全体での大幅な能力アップを果たしてしまった。いくら数の力を得たところで今の魔族たちにとっては烏合の衆と言える。 そこからは狩る側と狩られる側の立ち位置が戻る。いや、前よりも酷い圧倒的とも言える蹂躙がその場で起こってしまった。 これにより戦う力を失ってしまった人や他種族達は最後の賭けに出た。 魔族の蹂躙が開始されてから長い年月で人間たちが作り上げた術式。 それは勇者召喚。 この世界の外側、異世界と呼ばれる場所から勇者の素質を持つ強力な個体を召喚する術式。本来であればこの術式はまだ完成されてはおらず、成功する可能性は0に等しい。ましてや成功したところでほかの世界で生きてきたものがこの世界のために命を賭けて戦ってくれるとも思えない。 だがそれでもと。藁にもすがる思いでその術式を起動させた。
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