ラヴスモーカー

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月明かりが照らす港湾都市を一台のトラックが走っている。 そのトラックの積荷は「煙草」だ。 いまや煙草は、値上げに値上げを重ね、禁止に禁止を重ね、ごく限られたルートで大金を使わねば手に入らない代物となっていた。 トラックのヘッドライトが照らす遥か先、その光をビル陰から伺う一人の男がいた。 火のついた煙草を口に咥え、ときおり白い煙を吐いている。 「セブンよりケントへ。トラックが来た」 男は無線機を口に当て呼び掛けた。無線機からは「了解、準備オーケーだ」と、低い男の声が響いた。 「セブンよりpp(ピーピー)へ。付近に不審な動きは無いか?」 「付近に車両や人の気配はなし」 今度はハスキーな女性の声だった。 セブンは目前まで迫ったトラックを確認し、無線機で合図する。 「作戦開始!」 煙草を運ぶトラックの前方に、脇道から大型の乗用車が飛び出してきた。 運転手は慌ててブレーキを踏みトラックは前のめりに停止した。 それを陰から見ていたセブンが円筒状の道具を取り出し、トラックに向かって投げ込むと白い煙が吹き出し辺りを包み込んでいく。 トラックの運転手は混乱し車から離れようとする。 セブンは暗がりから白煙うずまくトラックの荷台に駆け寄り飛び乗る。 そこへ先ほど前方に止まった車がエンジン音を響かせバックで近づく。 運転席から大柄な男が現れトランクを開く。 セブンはそれを確認すると、荷台に積まれた煙草が入った箱を次々に投げ渡す。受け取った大柄な男はそれをトランクへ入れる。 五箱ほど回収すると二人はトランクを閉めて車に乗り込み、走り去った。 煙草一本よりも短い時間の出来事だった。 一般人が煙草を入手することが困難となったこの社会において、それでも喫煙の衝動を抑えきれず、あらゆる方法で煙草を入手しようとする人間たちがいた。 彼らは「ラヴスモーカー」と呼ばれた。
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