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「宝探しをしよう」
そう言ったのは、夏の暑い日、中学生だった頃の、友人と呼べる数少ない僕の同級生だった。
宝探しをしようと言い出したわりに、彼の手にはそれらしい宝の地図とか、掘り出すのに使うようなスコップとか、トレジャーハンターっぽい服を着ているとか、そんな事はなく、僕は「……は?」と茹だるような暑さが絶え間なく襲ってくる教室で、自分の机に肘をつき、頬杖をして斜め上にわくわくときらめく彼の顔を見上げた。
「どこにあるの、宝物」
さして興味が湧いたわけでもないけど、聞かない事には始まらないので、頬杖のまま問いかける。
すると彼はにっこりと、夏の太陽も溶けてしまうんじゃないかというくらいに素敵な笑顔を見せて言った。
「今日の放課後までに宝物を持って、中庭に集合ね!」
宝物、持参するんだ。
探すんじゃなくて。
彼の楽しそうな背中を見るのは、いつぶりだろうか。
そんな事を思ってしまったら、夏休みに入ってしばらく会わなくなる前に、ちょっと付き合ってやろうか、とそんな気にさせられたのだった。
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