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ばさばさっ。
小さなつむじ風でも起こしそうな重たい羽音が耳に届いたのは、すでに手も足も、体のどこかしこもが、全てから離れたあとだった。
バレッタが外れ、奈落へ落ちていった。
重力を止めなければ。
そう思って反射的に手を出した瞬間、あれが目に入った。
あれに気を取られた一瞬がタイミングを狂わせ、手は何もつかめずに空を切った。
結果、体は宙に投げ出されていた。
タイヤのスリップ音が立て続けに響いた。
バレッタが、キン、とアスファルトにぶつかって跳ねた。
重量感のある衝突音と、ガラスが砕ける音がした。
そして、静寂。
一連の出来事をしめくくるように、黒い羽根が一枚、ひらひらとゆっくり落ちていった。
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