魔王は想定外

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「ならば来年ならよかったのか?」  答え間違った。 「大人になったらだ! それに、そういうことは好きな相手とするべきだ! 試すとか興味本位とか、そんな軽い気持ちでやるようなことじゃねぇ」 「我はおまえを好いておるが」 「ッ…!?」  ぎょっとして魔王を見るが、奴はいつもどおりの悪人面に疑問符を浮かべていた。  そののほほんとした表情に俺は心の中で叫んだ。 (こいつわかってねえ!)  前から思っていたが、魔王は著しく人間的情緒を欠落している節がある。  まぁ元魔王なんだから、仕方がないといえば仕方ないのかもしれないが。ひどすぎる。  今の親はどうやってこいつを育てているのか。  情操教育は?  異世界人にあれは必須だぞ?  うっかり学校のウサギを食いそうになった俺が言うんだから間違いない。  どんな教育されてんだ、こいつは。  いっぺん親の顔が見てみたい。 「そーいう好きじゃなくてだなぁ…」 「好きにそーいうもこーいうもあるのか?」 「あるんだよ」 「どう違う」 「簡単にいうとラブとライクの違いだ」  なんで魔王に愛を教えてるんだろ、俺。  もう投げ出したい。 「ラブとライク。わかる?」  英語だぞ。  むこうの言語と違うぞ?  日本語でもないぞ? 「それはわかるが。……いまいちピンとこぬな」 「おまえの好きはライク。保健室でのあれはラブでなきゃ、やったらあかん。絶対あかん」 「ならラブでよいではないか」  あ、こいつ今面倒くさいって顔した。  思考、放り投げた。  なんて奴だ。  ……なんて奴って、魔王か。 (いや待てよ…?)  魔王とアロイス。  これは二人の前世の関係性をはっきりさせる良い機会かもしれない。  この魔王の、情緒が著しく損なわれている様子では、道ならぬ恋に苦しんだ間柄という女子達の妄想からはどうにもほど遠い印象を受ける。
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