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夫は私と目が合うなりにっこり微笑んだ。私を椅子に座らせ、顔を近づけて…
お・は・よ・う
耳の聞こえない私の目に挨拶してくれる。退院後の日課の一つだ。
「おはよう」
うまく話せているかは定かではないが、声は出ているようだ。
2人でインスタントコーヒーを飲む。私はこの時間が好きだ。夫の顔をしっかり観ると大抵何を話しているかはわかる。それは夫婦の歴史がそうさせる部分が大きい。こんな時には何を思うかまでわかってしまう。
空になったインスタントコーヒーの瓶を振りながら、後で買っておくね。と主人は言う。そして誕生日おめでとう。とも言ってくれた。
忘れていた。もう誕生日が嬉しい年齢でもないが、主人の気遣いに自然に笑みが溢れる。
実はプレゼントがある。とも言ってくれた。今日は遠出をするそうだ。天気もいいらしい。ずっと切り詰めた生活なので、何処かに出掛けるなんて事。すっかり忘れていた。
「ありがとう。」
この人と一緒になれた私は幸せだ…
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