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「てめー! 何しやがるんだ。緋色柱」 ていうか、自分の彼女に割り箸で刺されていた。 「何しているのはこちらの台詞。私が何度も呼びかけているというのに返事の一つもなかったものだから刺してみただけよ」 言いながら、彼女は表情一つ変えずに突き立てていた割り箸を抜き取る。 刺されたところに目をやると、そこは赤くなり出血の一歩手前だった。 マジかこいつは。鬼柱か? 否、割り柱か。 「だけって言うな。この反社会的勢力が。マジで痛かったんだからな。謝るんだ」 まだ右手のギプスは外れていないんだぞ! あとコルセットも。 「あら、気持ちの悪い顔で目を閉じていたからてっきり死んでいるのかと思ったのよ。生きていたのならごめんなさい」 酷い。 俺は手の甲をなでなでしてやりながら反論する。 「てっきり、じゃあねぇよ! そんな謝りかたがあるか。あと気持ち悪いって言うな」 「どうせ、変なことでも考えていたのじゃないのかしら? 鼻の下が伸びていたわよ。フュージョンするわ」 俺とか? いや、それなら考えないでもないけれど。 「考えていない。それよりお前、少年漫画とか読むんだな……」 意外だ。 「ええ。一度だけ読んだことがあるわよ。確か国立国会図書館で読んだのだったかしら。一緒に出かけた男がアーカーシャが何だのと会話が通じない相手だったものだから、仕方がなく漫画を借りて読んでいたの」 ………… 確かに国立図書館には漫画が置いてあるけれど。 「頼むからその話題は引っ張りださないでくれ……」 俺には一人で行った記憶しかないのだし。 俺が青ざめるのを確認すると「ふっ」と、鉄壁の無表情は僅かながら口角を上げてみせる。 みゅいっと上がった唇の少し上には、自信に満ち満ちた意志の強い漆黒のダイヤモンド。 「あなたが何を考えていたか、ずばり当ててあげましょうか」 「はぁ?」 平然と言い返すも、心臓が指で弾かれたようにきゅんと跳ねた。 「例えば――」 部室の床に座り込んでいた緋色柱は、それがさも当たり前かのように立ち上がる。 俺は彼女を目で追うように首を上げた。全身水色のジャージ姿。水色柱だ。 「例……えば?」 「あの日のこととか」 「え?」 怖すぎるよ。いや、もう俺からは何かが駄々もれなのだったっけ。 「図星のようね」 「……いや、違うって」 と俺は目を逸らした。
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