印黙

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 ある出版社が、チェーンメールを応用したチェーン小説を企画した。見知らぬ者同士が決められた登場人物に、セリフとストーリーを与えてゆくシロモノ。一人に割り振られるページは四百文字分だけ。最初と最後のページはプロの作家が担当するのである。  参加したい者は、登録するだけ。以後待つだけである。書く順番は無作為に選ばれる。自分のページを作成後、出版社に送信すると再び、無作為に次の作者が選ばれる。  だが、ある日の事。企画元の出版社が倒産した。暫く放置状態だったが、一人の作家が小規模ながらシステムを引き継いだサイトを開設したのである。皆が安心した。が、暫くして不思議な者が現れる。  登場人物に一切のセリフを与えない作者。ストーリーも常に『何もない』や『何の変化もない』等である。名は『印黙』と名乗る。決まって五〇ページ目に出現する。警告や勧告をしても出現する。だが興味を持った者が細工をして、五〇ページ目を獲得する。五〇ページ目の受信者を強制的に自分とさせた。更に『印黙』からの受信等を一切(一時的に)拒否する細工も施していた。  暫くして、その者に『印黙』からメールが届く。 『有難う。印黙から解放された。今後は君が黙る印……印黙だ。大丈夫。メールでの感情表現が出来なくなるだけ。そう、チェーンの一部なんだ。印黙という作者も』
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