有刺鉄線区画

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     北東北地方東温海市。  星望界大学構内。  山林を含む野球場28個分の広大な土地。  その施設は、奥深い雑木林の中にあった。  2層建のコンクリート壁に、小窓が少しだけ並んでいる。  アパート、校舎の類ではない。黒ずんだ灰色の監獄のような建物。建物の周囲には高い塀と有刺鉄線が張り巡らされ、塀の内側には数十頭の大型犬が放し飼いにされていた。口から白い泡を飛ばして、黄色い牙がむき出しになり、その鋭い歯には人肉の破片がこびりついていた。 「こいつら、食い方が汚ねえんだよ。もっと上品に食うように躾けなきゃな」  メタル製の防護服に全身を覆われた男がひえひえと厭らしく嗤った。 「若い娘の肉は旨かろうなあ」  男はふたたび猟奇的な笑みを浮かべた。男の視界には四肢の区別のない肉塊が散乱している。女の顔は恐怖で凍りついたままだ。首から下はない。内臓や骨が血の海の中で、のたうちまわっているように見えた。  凄惨な光景に、男は慣れていた。  なぜなら、彼の仕事は無残な遺体の回収と血だまりの清掃だからだ。  あの建物から逃亡を企てなければ、こんな仕打ちは受けないのだが。あの建物の中で、何が行われているのか、男は知らなかった。  中の環境をお気に召さない男女が、建物から逃げてくることがある。その時、獰猛な犬どもが、憐れな犠牲者を噛み殺す。  犠牲者の絶叫と悲鳴は、男にとって甘美な音楽なのだ。快感で体中が震えるのだ。建物内部の秘密ショーの内容など知らなくても、庭で起きるショーの堪能で充分だった。  
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