心のふるさと

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 「いいですね」  だから、私はその返事に反応が遅れた。  「すみませんね、佐藤さん。何か仰有いましたか?」  ちょっとの間を置いて、私は尋ねた。  年は取りたくないが、取ってしまっているものは仕方がない。耳も聞こえが悪くなって来た自覚が有った。それを知っている佐藤さんが、先程よりやや大きな声で言った。  「いいですね、コレ! これで行きましょう!」  私は、驚いてしまった。  「こんな感じでいいのですか?」  「ええ。これでいいのです。人間、生まれて来たからには、必ず故郷が有ります。この文章は、どこの誰が読んでも、自分の原風景が浮かぶと思うんですよ。日本人である限り。心のふるさとが」
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