夢の人

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 眉が下がっている。そして物憂げな目。『心配』だ。先輩が俺をこんなにはっきりと心配するなんてこと、あっただろうか。  「夢を見たんだ」  「えっ?」  初めて見た先輩の心配顔に気を取られて、思わず聞き返してしまった。先輩は不機嫌そうにすると、「だから」と人差し指を立てた。  「夢を見たんだよ。お前が危険なヤツと会っちまう夢を!」  「危険なヤツって、誰っスか」  「それがわからないから聞いたんだろ」  「わからないけど、危険なんスか?」  先輩は頷いた。社の縁側に腰かけて、足を組む。俺が隣に座ると、夢の内容を訥々と語りだした。  「夜だった。どっかの塚にその危険なヤツがいるんだ。姿とかは全然わからない。とにかく『危険なヤツ』。関わらないようにしようと思ったけど、そいつがいる塚の近くにお前がいるんだ。お前はこっちの声が聞こえてないらしくて、いくら呼んでも叫んでも全然振り返らない。それどころかお前はその『危険なヤツ』の方に寄って行くんだよ。それで」  早口になっていた先輩はそこで言葉を切った。ひとつため息をつくと、ペースを落とす。  「目が覚めた後、妙に記憶が残ってたからな。すわ正夢かと思った」  「へぇ……、俺が見た夢と似てますね」  そう言うと、先輩は首を傾げた。
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