叶わない我儘

37/38
1580人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
美月は目を瞠った。 呆然と浩二を見返す。浩二も美月を見返した。 やがて美月の目が潤み、消えていた意思が現れた。 「いやだ。そんなの嫌だよ」 「なら、なにがなんでも健吾を探すって気持ちでいろよ。 なんでも勝手に決めるなって言えよ。 あいつの勝手なんて今に始まったことじゃねーだろ。 あんなやつに付き合えるのは美月しかいないんだよ」 そうだ。健吾に付き合える女は美月しかいなかった。 暴れ馬みたいなやつだけど、美月が隣で屈託なく笑うから、あいつは自信を損なわずにあいつらしくいられたんだ。 一気にまくしたてる浩二を、美月はじっと見ていた。 目尻にたまった涙をぬぐい、その手で自分の頬を軽く叩く。 「ごめん。しっかりしなきゃね。 ……そうだよ、健吾くんは勝手だ。なんで勝手に決めちゃうの。 相談してくれなかったこと、見つけ出して怒ってやるんだから」 美月は赤い目でむくれたふりをした。その姿は浩二のよく知る美月だった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!