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沈黙以上の肯定はない、とは言うが、まさにそうだった。
梅は私が答えられないのを見ると『本当なのですね』と小さく呟き、顔を俯かせた。
そして勢いよく立ち上がり、駆けだそうとした細い手首を私は掴んだ。
『芹沢さんのところに行くつもりか?』
『今ならまだ沖田様を止められるはずです』
『行っても危ないだけだ』
『それでも行きます』
怒りや悲しみ任せの感情ではない、強い意志を宿した瞳だった。
きっと何故芹沢が殺されなければならないのか、と疑問に思っているだろうが、それ以上に彼を助けたい気持ちが大きいのだ。
そんな素直な心に、先ほどまで悩んでいた己の意思が、徐々に自分自身に浸透し始めたのを感じた。
重いだろうが、陽菜を中心に全ての行動を決めていたため、自分自身に意思と言うモノはなかった。
だから戸惑い、こうして最後の最後まで悩んでいるのだ。
しかしそう複雑に考える必要はないのかもしれない。
陽菜は新撰組の役に立ちたいと書いていた。
今、己が抱いている願いが、その役に立つということに沿うのかはわからない。
が、それでも願わずにはいられないのだ。
──陽菜、今回だけ、私の好きにさせてくれ。
心の中で陽菜に許しを乞い、掴んでいる手を離した。
まだぐらつく体を無理矢理立たせて深呼吸を一回すると、梅と目を合わせた。
『芹沢筆頭局長を助けに行こう』
この時は救えると…………まだ未来は変えられると思っていたが、そんな簡単ではないことを、私はこの後思い知らされた。
辿り着いた時には斬られる直前。
もし梅を引きとめずにそのまま駆けつけていれば間に合ったのだろうか、と後悔が募る。
そして私は初めて、この手で人を殺した。
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