だから俺は

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   忙しい父と、忙しい姉。何もしない自分が恥ずかしくて何度も姉の手伝いをしようとしたが、姉はいつも笑って、「しずくんはお勉強をがんばってくれればいいの」というばかりで、絶対に俺に手伝わせてくれなかった。  だから俺ができることは勉強をすることだけで、中学校時代は学年で常に一番の成績で、卒業式の答辞を任された。高校は教師に国内でも有名な名門高校をすすめられたものの、家から遠く離れていることと私立高校で学費が高額なことを理由に、近くの公立高校を選んで進んだ。  大学にいくつもりはなかったが、父と姉のすすめで、家から一番近い国立大学を受験して難なく合格し、今はそこに通っている。  父と姉の強いすすめで車の免許を取ったが、実は自動車学校にかかった金額を知ってしまい、やや後悔している。  しかし、俺が免許を取ったことで、父が休みの日にたまにしか使っていなかった、家にあるポンコツ一歩手前のおんぼろ自動車を利用するようになり、姉が楽をできるようになってよかったのかもしれない。  俺が免許を取って以来、姉の送迎は俺の仕事になった。 「しずくん早くー!」 「はいはい、今行くよ」  姉は俺のために色々なものを犠牲にしてきた。高校の頃、好きだったテニスの部活を辞め、輝かしい青春の大半の時間を家事に費やし、父の給料では二人も大学に行けないからと大学を諦めた。  姉は今、働いている。決して給料は高くないが、働かせてもらえるだけで十分だと、姉は言う。  俺を手招きする姉に歩み寄る。黒髪をなびかせながら身を翻した姉が、傘を手に玄関から飛び出した。 「しずくん遅い」 「はいはい」  ──だから俺は、この人には勝てないのだ。 .
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