ストーリー ストーリー

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 弘明寺(ぐみょうじ)という駅を降りたところに、俺の住んでいる街がある。快速電車の止まらない小さな駅だ。改札を出ると、左右に出口がある。左に降りると、ごちゃごちゃした商店街が続いている。八百屋に、花屋に、肉屋に、ラーメン屋などなど。そんなふうな個人商店の集まりが地元人に支えられ、賑わいを見せているのは今時珍しい。この街は、外国人向けの日本語学校があったり、国際教育に力を入れる県立高校があったりで、ヒジャブをまとったイスラム系女性や、不思議な匂いを放つアラブ系の人たち、早口、大声で会話する中国系の若者などが往来している。肌の色も様々だし当然食文化にもバリエーションがある。外国人が経営するラーメン店と、インド料理店は特に多い。イスラム教、キリスト教、そして駅前は寺だし宗教も様々。まさに庶民で構成する異文化村みたいな所だ。そして、お陰様で…というか、家族でやっているウチのカレー屋も、そういう人たちに愛され、そこそこ繁盛しているからありがたい。決してカレーハウスなんて、洒落たネーミングで通ずる店でなく、学生相手の、まさにカレー屋。俺は、大学2年で、学生が本業ではあるが、二階が住まいだから何かと借り出され、しょっちゅう店に立たせられている。今日も、カウンターの中でカレーを盛り付けていると…。 「まいどー!!」。 うわっ、来た!親父くせえ言い回し。肉屋の沙里だ。沙里は、二軒先の大舘精肉店の一人娘。ウチとは、商売上、昔からの付き合いがあり、俺は、コイツを長い間見てきてはいるが、どうも女の様な気がしない。といっても、男の様な気もしない。ってことは、なんだ。世間は、そういうのを、幼馴染とか、遠い親戚とか、身内同然とか、そんな言葉で表現するのだろうが、その、どれでもあるようなどれでもないような。強いて言えば、口うるさくて、扱いにくい小動物みたいなものか?とにかく変わった奴なんだ。 からんからーん、と、ドアのベルが店内に響く。 「おばちゃーん」 と言って、持ってきた籠を目の高さぐらいまで持ち上げる。 「お、ありがとねー。いつもご苦労さん」 と、お袋が答える。 沙里は勝手に調理場に入り、その籠から出した肉を冷蔵庫にしまっている。そして、伝票を、いつものクリップに挟み、ふーとか何とか言いながら、カウンターの一番端に腰掛けようとすると、 「すみませ-ん!」 と、テーブル席から声がかかる。俺が
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