たけねこ

2/3
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「お父さん、お父さん」 「許してくれ、許してくれ」  お父さんが泣きながら言いました。 「ヒメが泣くから、お父さんが苦しいのよ」  お母さんが言いました。 「ごめんなさい、ごめんなさい」 「堪忍してくれ、堪忍してくれ」  それから、お父さんは苦しみ抜いて死にました。  たけねこを刈っていたのはお父さんでしたが、それからはお母さんがするようになりました。  たけねこが生えてくると、それをお母さんが鎌で刈ります。 「なんで刈るの?」 「生えてくると五月蠅いでしょう? だから刈るのよ」 「ヒメ、あの声キライ」  だから、竹藪には近づかなかったのです。  たけねこは、他のうちでも生えてくると思っていました。  ところが、それがうちだけの特別なことだと気づきました。  友達のうちで仔猫を見せてもらったからです。 「ミャアー、ミャアー」  生まれたての仔猫はとても可愛くて、わたしの指を小さな舌で舐めていました。  それがとてもくすぐったくて、ふるえる手足が弱々しくて、わたしも仔猫を飼いたくなりました。  お母さんが刈る前に、たけねこをコッソリと抜いちゃえばいいのだと考えたのです。  また今日も裏庭で、たけねこがニャーニャーと鳴いています。  お母さんが寝たのをたしかめて、わたしはコッソリと裏庭に行きました。  月のない夜──裏庭は暗くて怖かったけど、仔猫が欲しかったからガマンしました。 「たけねこ、たけねこ」  たけねこの鳴く声が聞こえないから、懐中電灯の明かりで生えている場所をさがしました。 「たけねこ、たけねこ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!