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「鎌倉とアルデイン公国に、共通点ってあったかな? 向こうに海って無いよね?」
「…………」
思わず両親に向き直って藍里が尋ねると、その視界に入らないところで、クラリーサがこめかみに青筋を浮かべた。そんな二人の反応を同時に見て取ったダニエルが、笑いを堪えながら口を開く。
「お前には折に触れ、公国についての話を聞かせてはいたが、耳を通り抜けていた様だな」
そして万里も、笑いながら会話に加わる。
「確かに海は無いけど、周囲を山に囲まれているのは同じでしょう? それに鎌倉は日本で最初に本格的な武家政権が発足した土地柄だもの」
「アルデイン公国も、狭い領土の周りを急峻な山々に囲まれて、華やかな王朝文化の発展など望むべくもなく、周辺国からの侵攻を撃退し続けてきた国だからな」
「一言で言うと、攻め難く守り易い土地柄って事かしら」
「なるほど。全体的な地形と、戦闘職種の人間が国の中枢にいたと言う事ね。言われてみればそうかもしれないわ」
両親から指摘されて藍里が納得していると、それに補足する事をクラリーサが口にした。
「それにこの地には、何と言ってもリスベラント社の日本支社長が居を構えていますから。こちらにお世話になる事で、留学をなんとか認めて貰った様なものですし」
しみじみとした口調で彼女がそう告げた為、藍里はいつも通りの口調で明るく告げた。
「そうですよね。だってクラリーサ殿下は、いかにも上品なお姫様ですし。アルデインから遠く離れたこんな所まで、良く出して貰えましたよね」
「……誰のせいだと思ってやがる」
ボソッと、本人以外には聞こえない程度の低い声での悪態は、藍里の耳には意味不明の呟きとしてしか、認識できなかった。
「殿下。今、何か仰いましたか?」
不思議そうなその問いかけを、クラリーサは優雅に微笑んで誤魔化す。
「いえ、独り言です、気にしないで下さい」
「そうですか」
「それより、私の事は『殿下』ではなく名前で呼んで貰えませんか? 同じ学校に通うのですから、あまり仰々しい呼び方だと周りの方に気を遣わせてしまいそうなので」
「確かにそうですね。でも……」
どうしたものかと迷った藍里だったが、ダニエルに視線を向けると彼が無言で小さく頷いた為、了承と受け取った彼女は、再びクラリーサに顔を向けた。
「それではこちらにいる間は、殿下の事は『クラリーサさん』と呼ばせて貰いますね?」
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