偽りの婚約は船上で

19/25
4778人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
 すると、彼は急に「そうだ!」と大きな声を上げた。 「いいこと思いついた。お前、俺の婚約者のふりをしろ」 「はい?」  彼は最高の思い付きをしたと言わんばかりの顔で、ワクワクしている様子がこちらにも伝わってくる。 「なんで出会って間もない男の婚約者にならなきゃいけないのよ!」  声を荒げて言うと、彼はしれっとした顔をしている。 「大丈夫だ、ふりだから」 「ふりでも嫌!なんで私が名前も知らない男の婚約者のふりなんか」 「そうか、お前、俺の名前知らなかったな。 俺の名前は東郷彰貴(とうごうあきたか)。 東郷財閥の一人息子だ。 ちなみにこのパーティーの主催は東郷財閥が取り仕切っている」 「なっ……」  とんでもない金持ちそうだとは思っていたけど、このパーティーの主催者だったなんて! しかも、東郷財閥って、私でも聞いたことあるし! 何をしているかは全く知らないけど。  開いた口が塞がらず、言葉も失っていると、東郷彰貴と名乗る男は、目を悪戯に輝かせながら言った。 「それで、お前の名前はなんていうんだ?」 「え、私の名前……?」  冴木胡桃……と言いかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!