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困っている人を見ると、つい助けてあげたくなる自分の癖に、いくども首を絞められた。
助けてあげられることと、あげられないことがある。
今回の件は間違いなく後者だ。
「だからといって、婚約者のふりなんかできない!」
「百歩譲って恋人のふりでもいい」
「絶対嫌!」
男の人とまともに付き合ったこともないのに、ふりなんてできないし!
そんなことしたらますます出会いが遠のく。
お互い主張を引く気のないまま睨み合っていると、携帯の着信音が夜空に響いた。
「ちょっと待ってろ」
彼はズボンのポケットから携帯を取り出し、耳に当てた。
「もしもし、ああ、もうそんな時間か。分かった、すぐ行く」
電話に出た彼の声はとても低くて、一瞬で冷気を身に纏ったような冷淡さを感じさせた。
さっきまでの話しやすい彼はなりを潜め、近寄り難いオーラを放っている。
電話を切ると、威圧感を放ったまま私の顔を見下ろしてきたので、思わずたじろいでしまった。
今の彼にきやすく憎まれ口を浴びせることなんてできない。
「行くぞ」
彼は見えない仮面でも被ったかのように、ピリリとした無表情さで私の手を掴んだ。
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