●3 女神の失踪●

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 陽介は一変して毅然と首を横に振った。そんな態度をすると、逆に何かを隠しているのではないかと、勘ぐりたくなってくる。 「だとしますと、新倉健吾さんに何も不満が無いというのに、前の夫であるあなたと会うために台湾まで行かれるというのは、何だか釈然としないのですが?」 「別に、私に会うためだけで台湾に行っているわけではありません。去年も台湾に来たときは仇扮(きゅうふん)に行って、ちゃんと観光していますから」 「ぶしつけなことを伺いますが、結婚されていた時のように一夜を共にするというようなことも無かったのですね?」 「ありませんでしたよ」 目に非難のような光を宿して、陽介は尖った声で頷いた。 「そうすると智恵子さんは、観光のついでにあなたと会ったということですか?」 「もちろんです。私たちは互いに幸せな家庭を持っていましたから」 「ところで、差し支えなければお答えいただきたいのですが、智恵子さんとの離婚の原因は何でしたか?」 「すべて私の至らなさからです。もう二十年以上も前のことですが、私は小さなラーメン店を経営していたのです。ですが、悪い奴に騙されて、借金をこさえて、サラ金まで手を出して、それが返せなくなって、それで離婚してすべてを失ったのです」 「その時、離婚の話はどちらからでしたか?」 「智恵子からです」 陽介は再び肩と視線を落とした。 「サラ金にまで手を出してしまった経緯をすべて打ち明けた次の日、智恵子は子どもたちとともに、忽然と居なくなりましたので」
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