はつ恋キンモクセイ

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月の光に照らされて、虫の羽のような薄茶色の髪が夜の闇に透けるようになびいていた。 彼女がくるりと回ると、膝下丈の柔らかい白のシフォンのスカートがふわりとくらげのように開いた。 裸足にフラットなエナメル靴。踊るように軽やかにステップを踏んでいた。 風に乗ってただよう金木犀(キンモクセイ)の香りに胸を突き上げられた。 うつむいていた彼女がおもてを上げて、俺を見る。 「カロ姉(ネエ)……?」 あまりに似ていて、僕は思わず彼女にそう呼びかけてしまっていた。そんなはずがない、と口にしてからハッとした。 カロ姉は僕が小学生の頃、隣の家に住んでいた当時女子大生のお姉さんだった。 それはもう20年も前の話。僕は今月30歳。 「……じゃないか。すみません、知り合いに似ていたもので。ナンパじゃありませんよ」 そうおどけると彼女はきょとんとした後、ふ、と笑った。彼女の柔らかい笑顔を見て確信した。ほら、こんなに若く美しいカロ姉が今ここに存在するはずがない。
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