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「噂通り、凄い所だわ。私、心配になってきた。はい、どうぞ。」 「ああ、サンキュー。」 俺は、助手席に座る彼女……婚約者の由利江から缶コーヒーを受け取り、一口飲んでからドリンクホルダーにそれを納めた。 由利江は、俺の自慢の彼女。透き通る様な瞳に誰もが魂を奪われる。その長い髪に手櫛を通せば、その心地よさに我を忘れる。 ちょっと嫉妬深い所はあるが、優しく、穏やかな性格の彼女にプロポーズをしたのは半年前。 普通のサラリーマンである俺のプロポーズなんて、受けて貰えないだろうと思っていた。 彼女の回りには俺の年収なんて恥ずかしくて言えなくなる様な奴らが沢山居る。 勿論、彼女が二股やらをしているとは思っていないが、奴らを差し置いて何故に俺と付き合っているのか?それが不思議で堪らない。 そんな状況で玉砕覚悟のプロポーズを行ったのは、彼女の気持ちを確かめたかったからであるのだが、 OKの返事を貰ったあの瞬間は、25年生きてきた俺の人生で、最高の瞬間だった。 ─── さて、俺達が向かっているのは、最近ネットで話題のラーメン屋。なんでもその店は、とんでもなく山奥に佇んでいるのだとか。 山奥なのでまともな住所は無いらしく、サイトに載っているのは『ここら辺だった』と書かれた地図ばかり。しかもサイトによって微妙に位置がズレている。一番正しそうな場所をカーナビに登録したが、不安で有る事 この上無い。 それでもそこに向かうのには理由が有る。それは、そのラーメン屋の評価。どれだけ探しても『味』に関する事が書かれていない。ただ書かれているのは 『そのラーメンの中には宇宙があった。』 宇宙?宇宙って何だ? 漆黒に染まり、底知れぬ深さを持ったスープ? 宇宙食用に開発された麺? 興味深いラーメンである。是非、この目で確かめたい。 チャーシューが星形に刻まれているだけだったら机をひっくり返すかも知れないな。いや、ひっくり返す。 食レポなのに一様にして味に関する記述が無いのも疑問だが、アスファルトは敷かれているものの、既に電信柱は立っていない山林道。対向車も、後続車も、人の住んでいる気配も無い。 「ねぇ?道、合ってるのかなぁ?」 由利江の声に助手席を見やれば、そこには不安そうな顔が有った。きっと俺も、同じ顔をしてる。
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