あなたが恋に落ちるまで

3/42
3486人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
彼女さんが羨ましい。あんな素敵な人が恋人なら毎日がきっと楽しいはず。 横山さんの彼女も社内の人だ。丹羽さんも社内恋愛での結婚だし、出会いは近くにたくさんあるのかもしれない。 憧れる相手、憧れのシチュエーションがないわけではないし、総務部の仕事でたくさんの社員に関わるけれど、恋愛は私には無縁な気がしてしまう。 朝起きて会社に来て帰って寝てまた起きて。何の変化もない平凡な毎日が平凡な私には合っている。 それでも変えたいって、頑張ろうって、思ってもいいよね? もう自分のことを考えて生きてもいいよね……? 何の予定もない週末をだらだら過ごし、また月曜がやって来た。早めに家を出ても混雑する電車にうんざりしながら出社した。 土曜日は食堂も私の貸し切り状態にできるほど静かだったのに、今日のフロアは話し声が途切れず電話が鳴り止まない。 「夏帆ちゃんおはよう」 私より少し遅れて出社した丹羽さんの明るい笑顔には朝から癒される。 「おはようございます」 「これ旅行のお土産」 「わあ! ありがとうございます!」 丹羽さんから個包装のクッキーを受け取った。 「旦那さんと行ってきたんですか?」 「うん。いつ妊娠するか分からないから今のうちにね」 丹羽さんは照れたように笑う。本当に幸せそうな笑顔だった。 プルルルルル 私のデスクの内線が鳴った。 うわっ、来た! 月曜の朝から私にかかってくる内線はどうせ雑用の押し付けに決まっている。 嫌々受話器を取り「総務の北川です」と低い声を出した。 「おはようございます。秘書室の宮野です」 「おはようございます……」 宮野さんの声を聞いた途端に落ちた気分が更に落ちる。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!