楽屋荒らし

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麻里音の手に嫌な感触が伝わる。 「誰か……。誰か助けてくれ……」  相手が呟いた。それを聞いて麻里音は慌てて部屋の中心まで離れる。  声は低く、男の声だった。  男は楽屋の扉を背にくずおれる。  震える身体を押さえようと、麻里音は自分の身体を抱き締めた。  そこに、扉を叩く音が楽屋に響く。 「麻里音!」  マネージャーの声が扉の外から聞こえた。楽屋の扉を叩いているのはマネージャーのようだ。  麻里音はマネージャーの声に安堵した。足から力が抜け、その場に座りこむ。 「マ、マネージャー……」 「麻里音! 開けろ! 麻里音!」  男の身体が邪魔をして楽屋の扉が開かないようだ。へこたれそうな気持ちを抑え、楽屋の扉の方へ手を伸ばす。しかし、麻里音はすぐに手を引っ込めた。  マネージャーの様子がおかしい。  マネージャーは麻里音を助ける為に来てくれたと麻里音は思っていた。だが、楽屋の中で今起きたことをマネージャーが知るはずがないのだ。なのに、マネージャーはせっぱ詰まったような声で楽屋の扉を叩き続けている。  麻里音は嫌な予感がした。  震える足で立ち上がり、麻里音は自分がナイフを刺した男に近付く。眼鏡をしていないせいで、ぐっと近寄らないと男の顔が判別出来ない。麻里音は思いきって男の顔に自分の顔を寄せた。
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