そして私と海の向こう

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ネイは時折、近くのエルフの村へ出向き、薬の販売を行っているらしい。 それで得たお金で、食料品や最低限必要な日用品を得ているとのことだ。 しかし、現在は、私が居候している関係で、今までよりもお金が必要になっていた。 そのため、私に薬草学を教えつつ薬の調合を行わせ、完成した薬も販売することにしたようだ。 人一人を養うことは高齢のネイにとっては簡単ではないし、私の体は成長期である。 単純に、食費がかさむのだ。 私はその自覚があるために、薬づくりに積極的に取り組むことを決め、薬草学の本を開くのであった。 私が最初に作成したのは、痛み止めの湿布。 そして、作成したものを自身の筋肉痛の緩和のために体中に貼っている。 使用した薬草はエネモネ。 背丈は三十センチメートルほどの長さであり、十センチメートルほどの大きさを持つ団扇に似た形の葉がついている。 エネモネの茎をすり潰したものをエネモネの葉に乗せ、体に貼ることで効能を発揮する。 エネモネの特徴は、その葉にあった。 緑地に黒色の目のような模様が、一枚一枚の葉に描かれている。 暗闇の中では分かりにくいかもしれないが、明るい場所で見てみると、その植物の不気味さはより一層高まるものであった。 そんな葉を全身に張り付けた私は、まるで全身目玉人間のようになってしまっている。 そんな不気味な見た目ながらも、効果はあるようで何やらじんわり効いているような気がする。 私がエネモネの葉の薬効を実感し、服装を整えていると、ネイは私に少し大きめの植物の種らしきものを渡した。 大きさは三センチメートル程度。 茶色の皮の中に、真紅の硬い層があった。 名前をカサンドラの種という。 これは、胃薬や眠気覚ましとして用いられる種らしく、それを砕くように、とのことであった。 カサンドラの種は非常に硬く、石臼で挽こうにも、その表面をガリガリと削るだけでなかなか砕くことができない。 しかし、直接煮出して煮汁を飲むよりも、粉末を直接飲む方が効能は高く、また粉末を煮出すとより高い効能が得られる。 そのため、カサンドラの粉末は胃薬としては高値で取り引きされている。 素材賃というよりは手間賃がかかっているのだろう。
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