トンマな当事者よりマトモな部外者

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「嫌わないでくれ」  不安になってつい口にすると、光は眉を上げてぎょっとした顔をする。 「……抱き締めてやろうか?」 「スキンシップで幸せ成分が出るらしいからしてもらったほうがいいんだろうが、俺の中の反抗心がそれを許さない。やめてくれ」 「いや、オレは真剣に言ってるんだけどな。……充治は快楽部に参加したらいいんじゃないかって」  俺を気遣ってかおどけた調子で、それでもやっぱりフザけたことを言ってくる。 「葉櫓浦さんが関わってなきゃ誰があんなとこ行くもんか。でも、そうだな……ぶっ潰す為なら行ってもいい」 「好きで集まってる奴らだから、無理に解散させたって自然と元に戻るさ。それをやめさせたきゃ、全員を幸せにしなくちゃいけないな? 充治ならきっとできるさ」  なんなんだろうか、このこっぱずかしいくらいの信頼は。  それからは光の勉強に要点を移して、あれこれとりとめもない話をした。 「なあ、今日光の家泊りに行ってもいいか?」 「別にいいけど。週末でもないのに?」 「パンツ貸してくれ」 「いやいいんだけどさ。親の前でも優等生やるのがかったるいとかいう理由ならダメだぞ。逃げ場所にしてくれるのは嬉しいけど、そういう身近からの回避はよくないと思う」 「じゃあ光が泊りに来てくれ。パンツ貸してやる」 「それは……やめとこうか」  別れ際にもう一度切り出してみても光は首を縦には振らなかった。  何の約束もしないままだけれど、また明日も付き合ってくれると確信がある。 (ガス抜きはできてる。つっても、なんにも解決してないんだよなあ……。このままこんな感じで繰り返してて俺、卒業まで持つのか?)  なにしろあと2年も残っている。とことんまで悩ましい。 「充治」  帰り道を歩きだしてすぐ声をかけられ振り返る。同じように半身を返した笑う光がこっちを見ている。 「それでいいよ」  なにがとは言わない。教えてくれないし聞きもしない。それでも、その一言が心強い。  自然と笑顔がうつった。
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