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葉櫓浦さんにはそう答えてほしいと望むままの、優しい考えだ。一瞬思春期に犯された今の自分も受け入れてもらえそうな気がしてしまう。
だが仮に葉櫓浦さんが俺を赦しても、俺は自分を許せない。
それに、もっと気になることがある。
「じゃあ、葉櫓浦さんはどんなことで悩んでるの?」
快楽部より自分より、そのことのほうが遥かに重大だ。
「私は、その......なんと言いますか」
急にしどろもどろになった。なぜかは察しがつく。
「まあ、やっぱり葉櫓浦さんみたいな優等生には悩み続けるような問題なんて、あるわけないよね」
この春までは自分もそうだったという体験に基づく。先に「みんな悩んでいる」と言ったばかりで自分を例外にするのだから気まずく感じるのは仕方ない。
「アハハ......そんな風に......思われちゃうんだ」
葉櫓浦さんが急に足を止めてうなだれた。
「えっ、どうしたの」
驚きはしたものの。この感じは泣いているか怒っているかだ。顔が見えない不穏な角度のうつ向きは「傷つけてしまった」と罪悪感を引き出す。
男女の間を流れるギスギスした空気はどうしても痴話喧嘩の雰囲気を周囲へ伝えてしまう。今は葉櫓浦さんと特別な関係にあると誤解されて喜ぶような場合じゃあない。
他の生徒が多く集まる校舎の玄関口で立ち止まっていたら邪魔になるし衆目に晒される。
とにかく移動しなくては。
「ホラその......迷惑だから。ね?」
葉櫓浦さんの様子にすっかり怯んでしまって我ながら情けない声が出た。
聞こえているのかいないのか不安になったとき、パッと顔が上がる。
「そうですね! 迷惑でしょうね!」
不自然に大きな声。その笑顔を見ながら、どうにか「やっちまった」ことだけは理解した。
あのままそれぞれの教室へ別れたあと、自分の席で放心する。考えるのは葉櫓浦さんのことばかり。あんな素敵な女子が相手で、もっと楽しいやり取りもあったはずなのに、今朝の嫌な思い出ばかりを振り帰ってしまう。
「女子ってわからねえ......無性に光に会いたい」
考えてみれば昨日からわからない女子ばかりと接している気がする。
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