18 深夜、ファストフード

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「うわ、俺、部屋着のままじゃん。今気づいた」  立ち上がり、自身の格好に目をやった歩は顔をしかめる。 「そう? そういうおしゃれじゃないがけ? かっこいいよ?」 「これでかっこいいとか言われてもなぁ」 「うちもつばっちの部屋着だし、これ」 「勝手に着て怒られないの?」 「そんなことで怒ったりせんよ。鍵やったって勝手に持って出て来たし。てゆーか、翼、爆睡しとるし」  その翼のマンションはさゆりが言ったとおり本当に店からすぐだった。  一分もかからない。  エントランスまで送るも、ものの数十歩であっという間に着いてしまった。 「リハ……とかあるんけ?」 「うん。十時から」 「ってことは帰ってひと眠りできるちゃね。帰り道、居眠りせんでよ」 「さゆりこそ、眠くない?」  その言葉に暗示をかけられたのか、さゆりは返事をする前にタイミングよく出たあくびを必死で押し殺したが目にはしっかり涙が溜まった。 「ごめんな。今から寝て」 「歩は? 眠くないの?」 「徹夜ハイで、ライブにはちょうどいいテンションかも」  さゆりは、あははと笑って、「かもね」と言った。 「結構冷えるな。風邪、ひくなよ」 「歩こそ。大事な喉なんだから」  時間を引き延ばすための無意味な会話が続く。それでも、いつまでもそれを続けているわけには行かない。 「じゃあ、つばっちによろしく。サインはまた今度って言っといて」 「うん。ライブ……頑張ってね」 「うん。じゃあ」 「ん、ばいばい」  ややぎこちなく言い、とうとう踵を返し、マンションの中へ入っていくさゆりを、歩はその場から見送った。  結局、今日のライブにさゆりが来てくれるのか、来てくれないのか、わからないままに。
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