18 深夜、ファストフード

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 焦りの中で次の話題を探していると、会話もなく終始退屈そうだった奥の席のカップルが出て行った。  こんな時間からどこへ行くのだろう。  夜を明かすなら然るべき場所へ行けばいいし、帰る家があるならさっさと帰ればいい。  そんなことを思っているとさゆりがまた、いかにも社交辞令なあたりさわりのない会話を始めた。 「ここまで家から遠いん? 車でどれくらい?」 「うーん。三十分かかると思ったけど、時間も時間だったからか、二十分ちょっとで来れた。まあ、かなりスピード出したけど」 「もー、危ないっちゃ。しかし、歩が運転ってなんか変な感じ。いつも自転車やったし」 「それ、まったく俺のセリフだから。さゆりこそ、車に乗ってるイメージない」 「ほぼ毎日乗っとるよ」  ふとトレーに敷かれたペーパーに印刷されたハンバーガーが目についた。 「そういえば、俺、家出る前から腹減ったの思い出した」 「五時まであと十分くらいやちゃ」  さゆりが時間を確認している。  あのカップルは電車の始発待ちだったのかもしれない。  自分達ばかりが映るガラスの向こうに目を凝らしてみれば、駅の構内に照明が灯っている。 「そう言えばさ、高校の近くにあったGバーガー、潰れたんだな」 「そんながよ。あそこのトマトバーガー、うち大好きやったのに」 「俺さ、Gバーガーって全国チェーンだと思ってたんだけど」 「あ、それうちも思っとった! でも、こっち来て友達に、そんなの知らないって笑われた」   そういうの結構あるよなーと笑い合う。 「そういえば、昨日、テレビに出とるの観たよ。うちもモナカ好きやちゃ」 「ああ、セブンティーンアイスのやつ?」 「うん。けど、うち、一番はマカダミアナッツ」 「いやいや、モナカだろ。俺、あのウエハースの匂いが好きなの」 「なに、それ」  電車が動き始めたらしく客がぽつりぽつりと増え始めた。  さゆりが人目を気にして落ち着かない様子をみせたので、そろそろ行こうかと言って、歩はすっかり空になったカップだけが載る軽いトレーを持った。  いつの間にか五時を過ぎていたが、結局追加のオーダーしなかった。  ハンバーガーが食べたいわけじゃない。  アイスの話がしたいわけじゃない。  そんなことがしたいわけじゃないのだ。
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