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「おい、あんた」  直樹(なおき)の視覚、聴覚は、目の前のパソコンの画面に釘付けだった。インターネットカフェの個室は手狭で、長方形の空間を薄い壁1枚で仕切った長屋式になっており、直樹もソファの上で膝を折り曲げた格好で長時間を過ごしていた。 「あんただよ」  ずっと呼ばれていたのだろうと直樹が悟ったのは、ふと視界に入った腕が見えたときである。ぎょっとして上を振り仰ぐと、隣の個室から男が覗いていた。薄い壁はあくまでも仕切りのみで、天井は蓋をしていない。立ち上がった隣人は、壁のへりに腕をかけ、上から直樹を呼んでいた。  直樹は急いでイヤホンを外し、隣人と相対する。一瞬中学の同級生かと思ってヒヤリとしたが、よく見ると全然違う顔だった。ただし、人を値踏みするような目つきは似ている。直樹の苦手なタイプだ。 「なにか」  男は直樹のパソコンの画面に映っている『ブラコンシスターズ』──略してブラ妹(いも)──を一瞥し、鼻で笑った。
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