5人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「これ飲んで良いわよ」
ありがとうございます、と頭を下げて差し出されたお茶を一口飲む。
程良い温かさが心地良い。
「さっきの質問ね、拓三さんはここに来て三日後にはありがとうございました、と言って帰っていったわ。けど丁度その一年後ぐらいに、タクシー運転手になって突然現れたのよ。あなたみたいな人を連れてね」
懐かしそうに語っていた店長さんはそこで少し目を閉じた。
「拓三さんはね、自分の変わった姿を私の母に見せに来たのよ。けれどその時には私の母は死んでいてね」
店長さんの言葉の途中でトイレの扉が開き、運転手さんがゆっくりと出てきた。
店長さんは運転手さんに体を向ける。
「もう一本食べる? タダで食べさせてあげるわよ?」
「いりません。それよりお母様に挨拶してもいいですか?」
「……ええ。母も喜ぶわ」
運転手さんは一人、部屋の奥の見えないところに進んでいく。
今、あの人はどんな気持ちでいるのだろうか。どんな顔をしているのだろうか。
「多分ね、拓三さん。私の母が好きだったのよ。そして今も憧れ続けている」
店長さんは団子を二つ一気に頬張った。
そして喉に詰まらせて咳き込み、お茶をぐっと飲み込む。
「私も若くないわね」
店長さんはまた隠し笑いをした。
最初のコメントを投稿しよう!