奈落の果て

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インカムから七生の指示がある。 「若、恭介さん、お渡ししたサーモグラスつけてください。 そう云えば出掛けにもらった眼鏡みたいなものがあった。ジャケットの内ポケットに入れてたっけ。 眼鏡は花粉症予防眼鏡のような透明で縁が付いたモノだ。装着すると左目に明かりが灯る。 「なに?」 「会場は真っ暗なので人間の体温を感知して左目に映しています」 「サーモグラフィーか」 「敵味方は判断できませんのでご注意ください」 「わかってる」 人間の体温に反応しているだけだが、行動は見える。動きで敵髪型かは判断できるはずだ。 舞台上の人間は二人。床になだれ落ちているのは桂斗、引っ張り上げようとしているのは? 引くずって袖に逃げようとしているのか。 桂斗に触れていいのは自分だけ・・・・舎弟たちもそれは心得ている。 「どけ!桂斗から手を放せ!」 驚いて自分だけ逃げようとした・・・・・司会者かスタッフのひとりだ。 容赦なく逃げ去る背中に一発浴びせた。 銃声がなると観客たちは驚いて逃げ惑う。 暗闇の中でパニック映画のように絶叫が響き渡る。みな自分が助かりたくて二つしかないい入り口に殺到している。入り口は押し合い、殴り合いの大騒ぎだ。 外側からウチの舎弟たちがドアを閉鎖している。アリ一匹、逃げることもできない。 床に倒れた桂斗を抱きお越し、カーテンのような大きな布で彼を巻きつけた。 「兄ちゃん」 「・・・・・りく?」 「ごめんね。迎えに来るのが遅かった」 「若、早く退却しましょう」 「ああ」 彼を担いで袖に行く間に、再び舞台のスポットライトが中央を照らす。 真ん中の明るい光の中に髪の長い金髪の男が正装して立っている・・・・なぜ、この人が此処にいるんだ。 「観客御一同、自己紹介が遅れました・・・・ウチの息子を甚振っていただきありがとうございます。お礼に皆さまにもお返しを用意した次第です」 ゆっくりこちらを見てニヤリと嗤う。 知らせなかったことを責めているのか、それとも・・・・・。 「皆様に耐え難い苦痛と死出の旅路をご用意しました。たっぷりと堪能されるといい」 すると舞台から入り繰り離隔の壁に向かって拳銃を発射した。何かが割れて液体が降ってくる。 「なんだこれ!」 「ガソリンだ」 掛った人間が匂いでわかったのだろう。服を脱ぎ始めた。 「遅い!」 そしてそこに火のついたライターを投げつけた。
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