百舌鳥(MOZU)

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受け取れなかった卒業証書を受け取り、やっと高校生ではなくなった。 正式に雷文虎太郎と親子杯を、雷文桂斗と兄弟杯を交わす。 今は午前中に墨入れに、彫師のところに通う日々だ。 今日で墨入れは二回目。前に太腿横に兄の名前を彫っていたから、それほど苦痛ではないが、今回は背中全体のため、かなり体力を消耗する。 でも兄の雷文桂斗よりはまだ小さめだ。 肩や首はモデルの仕事があるため、服から見える所は入れられない。 極道の刺青と今のタトゥーでは、デザインが大きく異なる。極道の刺青は、やはり和のモチーフなのだ。 これが出来上がるまでは桂斗には見せない。 彼も、体力を消耗しているのを考慮しているのだろうか、毎晩求めては来ない。 それもそれで自分としては辛いものがあるんだけど・・・あまりに接触が少なくなると、急に疑心暗鬼になったりしてメンタルがやられる。 このあとは軽く夜回りをしたり、取り立てに回ったり・・・・新入りの舎弟のような仕事から始めた。 帰って来るのは早くて夜半過ぎ。通常は午前2、3時がほとんどだ。 向こうもそれくらいだから、そこから二人のラブラブタイムが始まるのだが、結局朝方になってしまい、朝日を浴びながらのエクササイズのようになってしまうのが今の悩みだ。 ただ・・・・・朝日を浴びた背中に青々とした龍が泳ぐさまはいつ見ても官能的なことは間違いない。 そこから眠って昼ごろまで彼は眠る。 昼飯前に一杯飲むようにスムージーを作ってから10時頃に墨入れに通うのがここ1週間の流れだ。 「ねぇ憲さん。太腿の内側とか入れられる?」 「・・・・彫師なら言われれば彫るが、和ものじゃねぇならタトゥアーチストだのなんだのって賜る兄ちゃんにでも彫ってもらえよ」 「花ならなに?」 「牡丹とか桜とかさ・・・・椿なんかもいいね」 「なるほど。蝶はどう?」 「あるにはあるが・・・・雷文の若頭よ、刺青てのは隠す美学なんだよ。見せびらかすためなら流行りのところに行けばいい」 「憲さんは、ウチの会長が薦めてくれた伝説の彫師だし、基本お任せだけど・・・・実は秘密のお願いがあるんだよ」 「秘密のお願い?」 「そう・・・・組長と”秘密の共有”のために入れたいんです。そこで憲さんにお願いしてるですけど」 「密約のため・・・・か。そりゃ腕が鳴るな・・・・」 さっきまで機嫌の悪かった憲さんの目に光を差してきた。
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