4人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「ただいま」
事件が起きた。なんのまえぶれもなく、とつぜん。
わたしの目の前に、クマのような、ふさふさでへんてこな生き物があらわれたのだ。
「ジロー? の、ゆうれいだ」
「ちがう。いきてるので、いきジローです」
言葉が詰まって、うまく声が出ない。
「なんで? 出ていったの? どうして? 帰ってきたの?」
ジローは、にぃっと白い歯をみせた。
あのときみたい。
あのときって、いつだっけ?
「おこめつぶ、そだてたのです。こめだわら、つくったのです。これで、うえじにしない。よかったですね」
ジローがくるりと背中を見せた。誇らしげにぴしっと背筋を伸ばしている。
そこには、おおきな、おおきな、米俵。
「あ」
あの日のわたしのいじわるに、長いまつげを瞬かせたジローがよみがえる。
ぽとり。と、涙が一粒こぼれ、どんどん水が溢れ出す。
生暖かい、しょっぱい水。
わたしの気まぐれないじわるに、ジローは。
「ごめんね。ごめんね、ジロー」
ジローは、大きな瞳をパチクリさせて、ちょっと首をかしげた。
それから、はっと気がついたように、ゆっくりと、大きくうなずいたのだった。
「だいじょうぶですよ。こめだわら、まだいっぱいあるよ」
……ちょっぴりズレてるところが、大好き。
わたしは、ジローのふかふかのお腹に顔をうずめた。なつかしい甘いにおいを吸い込む。
最初のコメントを投稿しよう!