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雨はいつの間にか止んでいた。
「…帰るか。多分やべぇんだよな、時間」
そうなのだ。皆月を見つけてすぐ戻るはずが、何がどうしてこうなったのか、かなり時間をくってしまっていたのだ。そろそろ俺達がいないと騒ぎになっていても可笑しくない。
俺は未だしがみついて泣いている皆月を見て、はぁ、と溜息をついた。
(仕方ねぇ)
そう思った俺は、皆月を無理やり引き剥がすと、くるりと背を向けてしゃがみ込んだ。
「ん、乗れよ」
「…え…」
「早くしろよ、お前引きずって帰るより早いだろ、ほら」
そう言って手を仰ぐも、皆月はおろおろして乗ろうとしない。
「で、でも…」
「でも、何」
「き、気持ち悪いって…」
蚊の鳴くような声だった。
いや、おまえ今抱きついてたじゃん。
でも、…言ったな、俺。うん、言った。
今更ながら罪悪感がぶり返してきた。
「言ったかもしんねーけど、思ってねぇ。お前の事じゃねぇ。」
つーかあれは、ときめいてた自分に対しての言葉だ。
今だって、こいつをおぶさりたいと思っているのは俺だ。
おれの根気に負けたのか、しばらく躊躇った後、じゃあ、と皆月が身体を預けてきた。軽くて、小さい身体だった。
暖かい体温が濡れたシャツ越しにじんわりと伝わってくる。
「…っははっ」
思わず笑った俺に、皆月は首を傾げている。
だってまさか。
たったの一夜でこいつとこんなに近くなるなんて、誰が想像できたよ?
抱きつきたがりの甘えた。なんて馬鹿にしてたのに。それが今、俺に抱きついている。
俺はそれが妙に嬉しくて、皆月の足をしっかり持ち上げて歩き出した。
歩きながら、俺達はしばらく無言だった。雨に濡れた地面はぬかるんでいて、俺は足を取られないようにと必死だったし、皆月は泣きすぎてしんどそうだった。
月明かりが出てきたおかげで、懐中電灯を照らさなくても道は明るかった。
雨と泥でぐちょんぐちょんになった靴をズボズボ言わせながらなんとか歩いていると、後ろで大人くしていた皆月が「…あの…」と弱々しく呟いた。
「ん?」
「あの…もうちょっと…して、いい?」
「?何を?」
「あの…背中…ギュってして、いい?」
「……おう」
そのお願いに、俺の心臓もギュッとしたという事実は、この森に永遠に葬り去っておきたい。
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