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私の大好物【side世莉】
「あっ、世莉ちゃーん。また、ここで会えたね。嬉しいなぁ。ね、隣、いい?」
軽やかに響くドアベルの音に重なって飛んでくる、明るい声。
あーあ、また来たわ。放課後の私の癒やしタイムに乱入してくるお邪魔虫が。
『いい?』と尋ねてるけど、いつも私が返事をする前に、当たり前のように隣に座ってくるその人は、同じクラスの九鬼律也くん。
私のお気に入り、駅前のレトロな喫茶店で過ごす午後のひと時を邪魔されるようになって、ひと月が経つ。
ついでに言うと、『世莉ちゃん』と下の名前で呼ばれるほどの親しい間柄ではない。決して。
だって九鬼くんは、先月転入してきたばかり。
『――九重世莉さん? うーん。九重さんって、何か呼びにくいから、僕は世莉ちゃんって呼ぶことにするね』
隣の席になった私が自己紹介するなり、彼が勝手に下の名前で呼び始めただけなんだもの。
男子に名前で呼ばれるなんて、もう何年も経験してないから、最初はものすごく抵抗があった。
呼びにくくても構わないから名字で呼んでと、お願いもしてみた。
ところが、抗議していたはずが、いつの間にか九鬼くんのペースに嵌まっていた。気づけば、部活や趣味、さらには私の家族についてまで、問われるままにペラペラと話して盛り上がってしまい、結局『世莉ちゃん』呼びのままという情けない有り様。
どうしてかなぁ。九鬼くんの纏う、ふんわりと甘い雰囲気のせいかしら?
強引すぎて、たまにちょっと引いちゃう時もあるにはあるんだけど。
初めて会った時に、『いいね、その眼鏡。君にすごく良く似合ってるよ』って、私の眼鏡姿をベタ褒めしてくれたから、かなぁ?
あれは……嬉しかったんだぁ。すっごく。
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