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翌朝、寝不足な頭で家を出た瞬間、真夏の太陽のような強烈な光が顔に当てられた。
驚いて片手を掲げると四方八方からマイクが突き出される。
それが襲いかかってくる蛇の頭にも見えて、景斗は思わず後ずさった。
「おはようございます、栗塚景斗くん! 夕べのバラバラ殺人事件についてですがっ」
悲鳴のようなレポーターの声。景斗は警察に対して恨みの呻き声を上げた。
参考人として警察に呼ばれたが未成年だったから名前は公表しない、住所も教えないって約束だったんじゃないのかい?
「第一発見者として何か気づいたことは?」
「どうしてあの晩あそこに?」
「犯人と思える人間を見なかった?」
「その顔、警察に殴られたの?」
庭でエスが吠え立てる。景斗と同じくらい彼も不機嫌なのだ。栗塚家の玄関と景斗はエスのものだから。
「警察の人に全部話しましたから」
景斗はマイクを手で押しのけて歩き出した。
こんなことなら母親の言うように今日は学校を休むんだった。
景斗の後ろから大人たちがぞろぞろついてくる。
「でもね、あんな道の真ん中で、しかも死体は死後いくらも時間がたっていなかったんだよ、人間をあんなふうにこまぎれになるほどバラバラにするなんて……」
「どっちかというと何かに押し潰されて死んだらしいぞ」
「じゃあずいぶん重いものの筈だ。そういうものを積んだ車とか、何か機械の音とか、聞かなかったの?」
景斗は一言も答えなかった。答えたらとたんにあの惨状が甦り、いくらも食べていない朝食を吐いてしまいそうだったからだ。
「景斗くん、一言! 一言だけっ!」
一瞬の隙をついて景斗は走り出した。
カメラを持った男や、きれいな女性リポーターたちもいっせいに駆け出す。景斗はその足を軽く弾いた。頭の中でそう想像するだけでいい。
「きゃあっ!」
とたんに固まって転がる。ガチャン! と酷い音がしたのはカメラか、照明か。
だが今の景斗はそれを申し訳なく思う気持ちにもなれない。角角から飛び出してくるマスコミの人間を交わすのに必死だったからだ。
「その顔、刑事に殴られたのか?」
今朝、マスコミの人間に聞かれたことと同じことをクラスメイトの佳彦が聞いてきた。昨日三浦に殴られた後は、一晩では消えなかった。
「違うよ、これは別件」
「で、どうなのよ、バラバラ殺人事件」
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