序章

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 僕の真横にあるドアが外側に吹き飛んだ。  煙が一気に逃げ出して晴れていく視界のなかに差し入れられるものがある。  手だ。指が長くて細い、女性のものと見まがうようなきれいな手。  その手が僕と助手席のシートの間に差し込まれる。  直後、車が爆発したと思った。だが、それは違う。車が派手に揺れたのは、強引に座席を前方に押しのけたからだった。そこに座る母だったものから跳ねた血液の飛沫が新たな染みをつくり、とっさに目をそらす。  そらした先に、男がいた。  ゆるやかにパーマがかった髪は真っ黒、長めの前髪に隠れがちな両の目は切れ長でそれでもどこかやわらかな印象を受ける。  通った鼻梁に薄い唇。無精髭はだらしない印象に拍車をかけ、不良学生のように着くずしているのは黒色の背広で、ゆるく巻かれていたネクタイをしめなおしている。  何よりも、その脚は、斜陽が引き伸ばした影でもないのに、やたらと長く見えた。  長身痩躯の姿勢を正し、硬い表情のままネクタイにそえた手を離すと咳払いをひとつ。  一転して酔っぱらいのようにだらしなく笑った。
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