紗綾

1/1
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

紗綾

今日は金曜日。 "本日の降水確率は90%"だったはず、なのに。 「珍しいな今日の天気予報はハズレか…」 梅雨の中休みとでもいうような青空を恨めし気に眺め、手にしている2本の傘をぎゅっと握りしめた。 今日こそは、そう決めていたのに。 また来週に賭けるしかないのか。 いつものカフェに彼はいるのだろうか? 雨が降っていないのなら、いないのかもしれない。 金曜日の夕方、彼に会えた日はいつでも雨が降っていた。 歩いているうちに急に雨雲が立ち込めてきて、さっきまでの青空はすっかり見えなくなってしまっていた。 そうかと思ったら突然ザァーっと雨が降ってきた。 ゲリラ豪雨!! 傘を手に持っていることも忘れて走り出す。 いつものカフェに向かって。 ──いた!! いつも見かける店内ではなく、店先で雨空を見つめている彼。 今日もいつもと同様に、傘を持っていない。 絶好のチャンスがやってきた! こっこっこれは、話しかけるチャンス!! すっごくイケメンの彼。 きっと大学生なんだろうから、私よりも年下だ。 店先で雨宿り? いまだ!いましかない!!頑張れ私!!! 「あ、あの、こんにちは!」 「………こんにちは」 ちょっと驚いたように私を見たイケメン。 「よくこのカフェでお会いしますね。今日は雨宿りですか?」 「いいえ、そう言う訳では……」 え?違うの?? 「だって!いつも傘持ってないですよね?」 「ああ、傘なら間に合ってます。もうすぐ来るんで」 ……もうすぐ、来る? 「フィリップ先輩~!!お待たせしました!!」 「遅いぞジョー、待ちくたびれた。ほら、貸せよ」 イケメン君はやって来た女子高生の傘を奪い取ると、相合傘で仲良く去って行った。 「先輩、あの女の人誰ですか?」 「さあ?もしかしたら秘密結社"猫の爪"のメンバーかもな?」 ………ちっ。 今日こそはチャンスだと思ったのに。 狙った獲物にあっさりと逃げられてしまった。 私はキャッチセールスをやっている新米セールスレディ。 今日こそはこの傘を売ることができると思っていたのに!! やっぱり私にセールスなんて向いていないのかな? こうなったら秘密結社"猫の爪"に入社しようかな。 END
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!