第一章

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ずるいね、ほんと。 そう言って俺の目の縁から涙を拭き取る時雨くん。 だんだんとクリアになっていく視界に目を閉じたくなる。 「ずるい、時雨くんはずるい!……っ、なんで俺ばっか!俺ばっか……!」 こんなに寂しくならなきゃならないんだろう。 こんなに悲しくならなきゃならないんだろう。 いつも俺ばかりが時雨くんを引き留めて、 嫌われたくない。 嗚咽がこぼれ、 涙が止まらない、水に入っていた器に亀裂が入りこぼれ落ち、感情があふれでる。 頭のなかは楽しそうに笑う時雨くんの顔。 隣には俺じゃない綺麗な女の子。 俺を置いてくようにすれ違う二人。 羨ましいな…… ひとりで眺めた二つの背中。 振り返ってほしい。 俺に駆け寄ってきてほしい。 嫌だ。こんな惨めな気持ち。 胸を押さえてしゃがみこむ。 ぐらんぐらんと歪む光景に深呼吸をする、 胸から込み上げてくる感情を吐き出したくなる。 ここでは時雨くんを嫌悪するのに 彼が俺を見た瞬間、 俺にとって全部なかったものになった。 吐き出したくなった苦しみも自分の感じた惨めな思いも。 俺は必死なのに。 嫌われたくないから、俺は都合のいい人間になろうとしているのに。 時雨くんは…… 「嫌いになっていいよ。」 って簡単に言うんだ。 「嫌いだ……嫌い。時雨くんなんか嫌いだ!」 子供みたいに大泣きして、くだらない嘘ついて あやされるように頭を撫でられてバカみたいだ。 「うん。」 「いつも、いっつもバカにしやがって……」 「だってバカ……あ、うん。ごめんね」 「口先だけの謝罪!」 「……だって……ほんとに悟バカじゃん」 「なんだと!これでも成績表はオールBだぞ!」 「それを堂々と言えるとこがバカなんだけど」 ぐっ、と言葉がつまる。 時雨くんは呆れた目で俺を見た。 だんだんと眉を下げてきた。 「嫌いになっていいよ。俺なんか……嫌いになった方がいいよ悟はバカだからきっと、自分が傷つくことがわからないと思うから」
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