おばけ

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引越が決まったのは、高校1年の夏のことだった。 真っ白なセーラーワンピの制服。 これを着たくて、がんばって勉強して受験して受かった私立高校。 当たり前のように転校になってしまう。 こんなことになるなんて思ってもみなかった。 1学期の終わりに、せっかくできた新しい友達と別れを告げて、家に帰って制服から私服に着替えて。 そのちょっとしか着ることのできなかった真っ白のまだまだ新しいセーラーワンピの制服を眺めた。 引越になった理由はいたって簡単だ。 お父さんが友人に騙されて大きな借金をつくった。 なんかねずみ講とか野球賭博とか保証人とか。 お父さんは会社で賭博をしていたらしくて、会社をクビになってしまった。 すべてはそのお父さんの友人のせいなのだけど、その友人と裁判になっても、借金は消えることはなくて。 家もローンを払えないし、売り払ってもっと安いところに引越、となったわけである。 私の転校のことも考えて、それが夏休みになった。 新しい学校は私立でもなくて公立で。 制服もあんまりオシャレな感じでもないらしい。 しょんぼりしながら、捨てることはできずに、今の学校の制服を段ボール箱に詰めた。 わがままを言えば、当然、今の学校に通っていたい。 ようやくちょっと慣れてきて、友達もできて、かっこいいなと思う男の子もできた。 でもお金がない。 お父さんもお母さんも引越まででもと働きに出ているくらい、お金がない。 学費が払えない。 そればかりは私が自分で働いて払って通うなんてこともできない。 お父さんの友人、山崎さんをひたすら恨む。 恨んだところで私にはなにもできないのだけど。 ため息ばかり。 新しいところは古い一軒家らしい。 この綺麗な家とは比べ物にならないくらい、狭くて汚いというお母さんの評価しか知らないけど。 一軒家なだけよかったということにしようとお母さんは前向きに言っている。 私もそれを見習うべきかもしれない。 一番凹んで泣いていたのはお父さん。 騙されたお父さんが馬鹿だって思うけど。 そんな友人をもったお父さんが馬鹿だって思うけど。 支えようとしているお母さんを見習おう。うん。
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