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「それは日本人的で、もっと言うと男性的な、調和を何より重んじる、阿吽の呼吸を共有できる者を重用したいと仰るのですね」
「うーん、そういうのとも違うんだけどね」
武は顎を掻く。
「僕はね、三浦君。君の戦う姿勢を高くかってる。うちには今までなかったタイプだ。我が校にきっとあらたな科学変化をもたらしてくれるだろう。けどねえ、何故だろう、僕には今の君からやる気が伝わらないと感じてしまう。君の学生時代を僕は知ってるからね、余計にそう見える。君にはひたむきさがない。歳を重ねて智を蓄えて賢くなったのとも違うんだね、三浦君。人生から逃げるだけではだめなんだよ」
「私が? 逃げてると?」
「違うかい?」
三浦と武は対峙し、目を逸らしたのは三浦の方だった。
「逃げ場を求めて来る人を、受け入れられる余裕はうちにはないよ。指導者たる者常に挑戦者であれ。常に学び、自ら殻を破る者であれ。今の君に、うちの生徒は任せられないな」
彼女はぎりと唇を噛む。
慎一郎には少し前の自分と、今の三浦の姿がかぶって見えた。
武は自らの殻を破れと言う。
人生を斜に構えてのらくらと流してきた。
ここで、たまたま職責を担えるようになった、昇進も果たせた。
――自分は放逐される一歩手前だったのではないか。
ひやりとした。
脇の下に冷たい汗が伝う。
その時だった。にわかにドア向こうが騒がしくなったのは。
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