第1章

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「それは日本人的で、もっと言うと男性的な、調和を何より重んじる、阿吽の呼吸を共有できる者を重用したいと仰るのですね」 「うーん、そういうのとも違うんだけどね」 武は顎を掻く。 「僕はね、三浦君。君の戦う姿勢を高くかってる。うちには今までなかったタイプだ。我が校にきっとあらたな科学変化をもたらしてくれるだろう。けどねえ、何故だろう、僕には今の君からやる気が伝わらないと感じてしまう。君の学生時代を僕は知ってるからね、余計にそう見える。君にはひたむきさがない。歳を重ねて智を蓄えて賢くなったのとも違うんだね、三浦君。人生から逃げるだけではだめなんだよ」 「私が? 逃げてると?」 「違うかい?」 三浦と武は対峙し、目を逸らしたのは三浦の方だった。 「逃げ場を求めて来る人を、受け入れられる余裕はうちにはないよ。指導者たる者常に挑戦者であれ。常に学び、自ら殻を破る者であれ。今の君に、うちの生徒は任せられないな」 彼女はぎりと唇を噛む。 慎一郎には少し前の自分と、今の三浦の姿がかぶって見えた。 武は自らの殻を破れと言う。 人生を斜に構えてのらくらと流してきた。 ここで、たまたま職責を担えるようになった、昇進も果たせた。 ――自分は放逐される一歩手前だったのではないか。 ひやりとした。 脇の下に冷たい汗が伝う。 その時だった。にわかにドア向こうが騒がしくなったのは。
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