第三章

15/20
55人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
私は、例の女の家の様子を伺っていた。 その家は、桜並木が綺麗に植わった閑静な住宅街の一角にあった。 まるで他人を拒絶するかのような、がっちりと閉ざされた門の前に私は立ち尽くした。 敵はなかなか手強そうだ…… しかし、ここでひるんではいけない、と思った。 私は、近くの植え込みのかげに隠れて、女が帰って来るのを待った。 5、6時間経っただろうか。 辛抱強く待っていると、ついにその女がやってきた。 私は、その女の前に飛び出した。 「大嶋さんにつきまとうの、やめろよ! 大嶋さんはいい迷惑なんだよ!!   男とみると色目使いやがって、この淫乱女!!」 私が女の胸ぐらをつかんで、ひっぱたこうとした時、その女はとっさによけた。 その瞬間、力いっぱい向かっていった私はよろけてつまづいてしまった。 その隙に、その女はさっと門の向こうに逃げ込んだ。 私は、その女の背中に 「今度つきまとったらタダじゃすまねーからな! わかってんだろうな!!」 と思いつく限りの怒号を浴びせた。 その女は振り返って、怯えたような目で私の顔を見る。 「……はい。」 ガタガタと震えながら小さく頷いていた。 これだけ脅せば、もうつきまとってくることはないだろう……。 取り逃がしたのは残念だったが、上々の首尾に私は満足して家に帰った。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!