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キスする時の、享が人差指で耳朶を弄ぶ、あの感覚すら呼び起こして。
ぱしん!
と、濡れたままの手で、左耳を塞いだ。
――― やだ、何。コレ。
異様に敏感になった耳元は、確かにキスをした時の触覚を思い出している。
自分の手が触れることにすら過敏に反応して、ぞくりと背筋を擽った。
――― やだやだやだ、これじゃ、まるで。
これじゃまるで、ほんとに欲求不満みたいだ。
違う、違う。全部。亨が悪い。亨のせいだ。
思わせぶりな態度で、適当な約束して
あげく放置されたから、ちょっと気になっただけ。
ただ、それだけだ。
欲求、不満なんかじゃ。
ぱたぱたと、涙が流し台に落ちた。
悔しい。私ばっかり、振り回されて。
それでも私は、亨の声が頭の中でリピートする度に鮮明に蘇るキスの記憶から、逃げることはできなくて。
その感覚を握りつぶすように、自分の耳を全部掴んで強く握った。
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