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亨の電話から、約三十分ほど経った頃。
私たちはまだ図書館の庭のベンチに居て、私には柵をはさんだ向こうの道路を亨の車が通過し、図書館のパーキングに入るのが見えた。
「来たみたい」
「そう。迎えに来てくれて良かったね」
そう言って、優しく笑う颯介くんからは、さっきの雰囲気はもう嘘みたいに消えていた。
「さっきは、ごめん。脅かしたりして」
「ううん。もう気にしてないよ」
あの時、キスされる、と思ったのは私の気のせいではなかったようで、亨の電話に出たすぐ後にも、謝ってくれた。
私が簡単に気を許しすぎているように見えて、少し脅かそうとしただけなんだと思う。
「男なんて、気持ちがなくてもキスくらいできるんだから……ちゃんと、確かめないとダメだよ」
心配そうにしながらも、笑ったその言葉が少し、胸に刺さる。
確かに、亨なら、きっとそうだ。
「うん、ありがとう」
そう言って、笑いながら颯介くんの後方に視線が移る。
パーキングの方から、早足で歩いてくる亨の姿が見えた。
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