貴方と私のすれ違い。

2/26
1089人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
亨の電話から、約三十分ほど経った頃。 私たちはまだ図書館の庭のベンチに居て、私には柵をはさんだ向こうの道路を亨の車が通過し、図書館のパーキングに入るのが見えた。 「来たみたい」 「そう。迎えに来てくれて良かったね」 そう言って、優しく笑う颯介くんからは、さっきの雰囲気はもう嘘みたいに消えていた。 「さっきは、ごめん。脅かしたりして」 「ううん。もう気にしてないよ」 あの時、キスされる、と思ったのは私の気のせいではなかったようで、亨の電話に出たすぐ後にも、謝ってくれた。 私が簡単に気を許しすぎているように見えて、少し脅かそうとしただけなんだと思う。 「男なんて、気持ちがなくてもキスくらいできるんだから……ちゃんと、確かめないとダメだよ」 心配そうにしながらも、笑ったその言葉が少し、胸に刺さる。 確かに、亨なら、きっとそうだ。 「うん、ありがとう」 そう言って、笑いながら颯介くんの後方に視線が移る。 パーキングの方から、早足で歩いてくる亨の姿が見えた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!