六章 あなたと、わたしが、ひとつになるとき

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「君を僕の実験場に招待するよ」 暗闇のなかを歩きだす。 シオンが最初にレラをつれていったのは、死体安置所だ。病院のそれというよりは、モルグ。死体を冷凍保存できるボックスが、いくつもならんでいる。 「ここにね。昔の僕が眠ってるんだ」 シオンは首にクサリでさげたカギを、服の下から、ひっぱりだす。ボックスのひとつを、そのカギであけた。 すっと、コンテナがひきだされる。 なかに凍りづけの死体があった。 僕の白雪姫ーー レラは知った。 シオンの言う白雪姫とは、誰のことをさしているのかを。 死んだまま眠る絶世の美女。 それは、かつてのシオン自身のことだ。 今のシオンも、とても美しい青年だ。でも、その死体は、この世のものとは思えない。女とも男とも違う。しいていえば、その中間。 妖精とか、精霊とか、そういうたぐいの何かのような。 死体ではあるけれど。いや、死体だからこそ。この世のことわりから外れた美を体現している。 「これ……シオン?」 「そうだよ」 「きれい」 「きれいだよね」 「顔はシオンだよね。でも、少し違う」 「これは両性具有の僕だからね」 「今のシオンは?」 「僕は単性XYの僕」 「死んだの? 以前のシオンは?」 「そう。死んだ。実験を成功させるために、みずから、このなかに入って眠りについた。次に目覚めたときは、計画どおり、この体のなかだった」 「そんなことができるの?」 言ってから、レラはハッとする。 シオンはクローンの研究をしていた。遺伝子操作によるクローン再生の研究を。 それに、魂の存在の証明……あるいは、死者の魂の蘇りについて。 「クローンなの……? 今の体は、この死んだシオンの遺伝子を組みかえたクローンなのね?」 「そう。母体が必要だったから、ユカさんに協力してもらった。単性にしたのは、僕の自意識では男性だったからなんだけど」 「でも、それだけじゃ、記憶は残らない……」 「知ってる? 赤ん坊のときには、人は前世の記憶を残してるんだ。でも、その記憶は、物心がつくころには消えてしまう。三、四さいまでだよね。 じゃあ、もし、その期間に、いっきに大人になることができれば、どうだろう? 前世の記憶を失う前に」 思いあたる。 レラのなかで急速に成長し、消えていった胎児。 それに、レラ自身も一歳のときには大人のように、しゃべったという。
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