第一章 セインの戯れ

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次世代を担う中央貴族の世継ぎらが入学するこのアカデミーにはさまざまな学部がある。 経済を自在にあやつる経済学部から、商人や貴族を相手に優位に立つための交渉学、非常時を予測し、インフラなどの整備を行う国防学、溢れる野心で人々の心を掌握するすべを習う帝王学など。 どの学部を選んでも、貴族のたしなみである剣術は必修科目。 昼をはさんで、午前が必修、午後に各学部に分かれてそれぞればらけて行動するシステムになっている。 もちろん僕のように地方からの者は例外なく寮生活をするわけだけど、ひとによっては、お抱えの馬車で通ったり、自らの意思で親元を離れ、自立目的で寮を利用する者もおり、様々だ。 宿舎から校舎、修練所へとつづく長い渡り廊下を訓練剣をかつぎながら歩いていく。 空を見あげると、雲のない青空が屈託なく笑っていた。今日もいい天気になりそうだ。 ふと鼻腔に運ばれてきた薔薇の香りは、校舎と修練所をつなぐ中庭のローズガーデンから。 舗装石が敷きつめられた中庭は、蔦薔薇が絡まるみごとなアーチ状のトンネルや、光をうけてかがやく噴水がしぶきをあげている。 舗装道に沿うように植えられている低木は一定のラインで綺麗に切り揃えられている。 美観を保っているのは、国防学科の生徒らが頻繁に手を入れているからなんだろうな。 昼時ともなれば中庭は、大勢の生徒たちで賑わう。 憩いの場を追い越してしばらく行くと、やがて視界の先に、ドーム型の建物がみえてきた。 傭兵同士が技を競い合うコロシアムを 模したものだという。 入口の両開きの扉に手をかけようとしたそのとき、急に臆病風が吹いて、足を止めてしまった。 中からいくつもあがる威勢の良い声に 気圧されたからでもある。 遅刻したことはもちろん、それ以外にも足を止める理由があった。 「…………今日は絡まれないといいな」 僕は両開きドアの片側のハンドルに手を伸ばし、ため息混じりにホールへの扉を開いた。
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