第一章 セインの戯れ

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……そのときだった。 前からなにかがものすごい勢いで僕にぶつかってきた。 「わっ」思いがけないことに驚いた僕のからだは壁に吹っ飛ばされ、しりもちをついてしまった。 「待ちわびたぞ、我の下僕!」 首すじにまわる華奢な腕に、視界いっぱいに展開する蒼い髪。身を包んでいる彩度が高い青の タキシード。ハーフパンツから伸びる足にまたがれて座られ、ちょうど馬乗りに される。 「どうだまいったか、まいったと言え! 降参すると言って今日こそ我の手下となるのだ!」 僕の上で腕をくんで得意げに笑う少年。 肩口に中等部共通の肩章の、色は黒。 帝王学部の所属のあかし。 「シュミット……重い、どいて」 「重いだと!なにを貧弱なことを! 今日こそ、我の手下になってもらうからな!」 シュミットは背負っているカバンから取りだした1枚の紙きれを僕へ突きつける。 「さあ、今すぐここにサインするのだっ、早く!」 「それ、結婚誓約書……」 指摘するとみるみる内に顔が真っ赤にそまり、挙動がおかしくなる。 「ば、ばばばかめっ! いいか我の中では婚姻も下僕も手下もすべて同意義なのだ」 大きな瞳がぐるぐる回っている。 混乱しているようだった。 「くっ……失策か! か、かくなる上はじ、実力行使に出るまでっ!」 ごきゅん、と唾をのむ音が聞こえたのは、気のせいじゃない。 覚悟を決めたシュミットの真っ赤な顔がぐぐっと近づいて──
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