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……そのときだった。
前からなにかがものすごい勢いで僕にぶつかってきた。
「わっ」思いがけないことに驚いた僕のからだは壁に吹っ飛ばされ、しりもちをついてしまった。
「待ちわびたぞ、我の下僕!」
首すじにまわる華奢な腕に、視界いっぱいに展開する蒼い髪。身を包んでいる彩度が高い青の
タキシード。ハーフパンツから伸びる足にまたがれて座られ、ちょうど馬乗りに
される。
「どうだまいったか、まいったと言え!
降参すると言って今日こそ我の手下となるのだ!」
僕の上で腕をくんで得意げに笑う少年。
肩口に中等部共通の肩章の、色は黒。
帝王学部の所属のあかし。
「シュミット……重い、どいて」
「重いだと!なにを貧弱なことを!
今日こそ、我の手下になってもらうからな!」
シュミットは背負っているカバンから取りだした1枚の紙きれを僕へ突きつける。
「さあ、今すぐここにサインするのだっ、早く!」
「それ、結婚誓約書……」
指摘するとみるみる内に顔が真っ赤にそまり、挙動がおかしくなる。
「ば、ばばばかめっ!
いいか我の中では婚姻も下僕も手下もすべて同意義なのだ」
大きな瞳がぐるぐる回っている。
混乱しているようだった。
「くっ……失策か!
か、かくなる上はじ、実力行使に出るまでっ!」
ごきゅん、と唾をのむ音が聞こえたのは、気のせいじゃない。
覚悟を決めたシュミットの真っ赤な顔がぐぐっと近づいて──
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