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そこで白羽の矢が立ったのが、姉の実家というわけだ。
父も母も受け入れがたいのはわかっていた。
でも私、その子の写真を見せてもらった瞬間、涙が出てきた。
あの子、ぶさいくな顔で笑うの。本当にうれしいんだなって見てるこっちが思わず微笑んじゃうような、潰れたぶた猫みたいな顔で笑うんだ。
私、それがなぜだかすごくかわいく見えて、そしてかわいそうで、涙が出た。
父親側に「おまえのことは引き取れない」と拒否された子どもをこの上私たちまで弾いてしまうの?
同情と言われればそれまでだし、結婚の予定も皆無なら男友達すらできない器量の悪い女だけど、やれなくてもやりきらなきゃいけないと思った。
それから私、お母さんになろうって決めた。
両親に頼み込んであの子を受け入れてもらったんだ。
そのとき、母も父も姉に言ったような「まだ若いんだから」とか「おまえは未婚だろうが」とか、色々言われたから、私は約束をしたの。
「私、ひとりでもやってみせる……」
絶対に最後まで投げ出さず、ひとに寄りかかったりもしない。
私が、あの子を受け入れる。
その覚悟を、誓約書に書いた。
「そんなに気負うこと、ないですよ」
はっとして、顔から手を離した。
周囲の喧騒が戻ってくる。
私、かなり深くまで考え込んでいたみたい。
ゆるゆると視線をあげて、三歩先に立っているワークパンツの足を見つめる。クラゲのそばで聞いた声が、その人物から聞こえたと思ったけれど、合っているだろうか。
「しつこくてすみません、どうも気になったものだから」
ばつが悪そうに、彼は苦笑していた。
ぺたりとしたおとなしい黒髪に、人付き合いが苦手そうなやわらかい風貌の男のひとだった。ちまたでよく言う、イケメンという感じではなくて、相談室の先生とか保父さんとかが似合いそうな、ふんわりしてほんわりして、あたたかな、春の日の雰囲気を持った男のひと。あと忘れちゃいけないメガネ。
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