浮遊クラゲ

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 迷子センターと札のかかったカウンターには、数時間前に対応してくれた女のスタッフさんがまだいてくれる。さっき来たとき、お昼休憩の時間を耳打ちしていった同僚の女のひとがいたのに、他のスタッフさんに任せたりはしなかったらしい。年輩の方で、ふくよかな体格に安心感を覚える。ふっくらしたほっぺたでにこっと微笑み「大丈夫ですよ、すぐに合流できますからね」と言うのを聞いて、少しだけ泣きたくなった。  だからやめなさいって言ったでしょう。  母の呆れた声が耳の内側で響く。  そうかもしれない、とたった三ヶ月しか経っていないのに同意しそうになる。  私はいてもたってもいられない気持ちを抑えて、少しだけ座ることにした。  母親らしい、薄青のシンプルなワンピースを着た私が向かいの窓ガラスに映っている。顔はとても二十六とは思えないくらいにげっそりとして、艶がない。隈もひどい。化粧はそれなりにしてきたけれど、館内を歩き回るうちに汗にまぎれてなにがなんだかわからなくなった。  私、やっぱりまだお母さんにはなれないのかもしれない。  しつこいくらいに流れる迷子のアナウンスを間近で聞きながら、私は膝に肘をついてうつむいた。手のひらに顔を埋めると、周りの物音やひとの声がよく聞こえる。 「真崎さん、もう少し一緒に待っていましょうね」  うなだれる私に、スタッフさんが優しく声をかけてくれる。 「……見つからなかったら、どうしよう」  おとならしく、毅然としていられない。顔をあげて、そうですねと微笑みを返せない。  だから私、あの子に嫌われているのかな。  いよいよ本気で涙が出てきて、私はもう顔を伏せているしかなかった。
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